「日本人には太る才能がない」という意外な言葉から見えてきた、日本ならではの健康課題とは? 印象に残ったお話をレポートします。
日本人には「太る才能がない」?
厚生労働省の堀岡伸彦健康課長は、まず日本の現状について触れました。日本は健康寿命がほぼ世界一の水準にある一方で、健康寿命と平均寿命の間に差があることが大きな課題だといいます。そして、この差を縮めていくうえで非常に重要なのが、肥満の問題だと話していました。
日本は太っている人が世界で最も少ない国の一つ。ところが同じBMIでも、白人に比べて日本人のほうが病気になるリスクが高いそうです。日本肥満学会の下村伊一郎理事長は、これを「日本人には太る才能がない」と表現しているとのこと。同じBMIでも、体質によって健康への影響が違う。数字だけでは判断できない奥深さを感じるお話でした。
「太っている人が多くないのだから、政策として優先する必要はないのでは」という見方もあるなかで、この点をしっかり伝えていくことが大切だと語っていました。健康寿命と平均寿命の差を縮めるうえで残る大きな論点は、肥満と睡眠の2つだそうです。
太りすぎだけでなく、痩せすぎも健康課題
堀岡課長は、同じ体重の問題として「痩せ」についても問題提起しました。日本では太っている男性が多く、しかも増えている一方で、女性の肥満はあまり増えていないそうです。その代わり、BMI18.5以下の痩せている女性の割合が、日本と韓国で非常に高いそうです。そうした人が肥満症治療薬でさらに痩せてしまうことも、大きな問題だと話していました。太りすぎだけでなく痩せすぎも健康課題として挙げられていたのは印象的です。
企業の「健康経営」が肥満症対策を後押し
経済産業省の福田光紀ヘルスケア産業課長は、「健康経営優良法人」の認定制度を紹介しました。企業のさまざまな取り組みを調査票で評価し、認定する制度です。
肥満症に関わる評価項目には、ヘルスリテラシーを高めるための教育、メタボリックシンドローム対策、特定保健指導の実施率を上げるための取り組み、運動習慣を定着させる取り組みなどがあるそうです。
経済産業省のアンケートでは、健康増進だけでなく企業の活性化につながったという声も聞かれているといいます。健康経営に取り組む企業のほうが離職率が低いというデータもあるそうです。認定法人は、大規模法人で2,300社超、中小規模法人で2万3,000社超にのぼり、今後さらに増やしていきたいと話していました。
国の「骨太の方針」に「肥満症対策」が入るまで
とかしきなおみ衆議院議員は、肥満症はさまざまな病気の「上流」にあると指摘しました。これまでは個々の病気をどう診るかが先行し、その上流にある肥満や肥満症にはなかなか手がつけられていなかったといいます。薬剤師でもあるとかしき議員は、職種同士が対立するのではなく協力できるテーマを考えていたときに、肥満に行き着いたそうです。肥満症はBMIなど身近な数値で効果が見えやすく、自分でも効果を実感できるため、国が掲げる「攻めの予防」を具体的に進めるうえで、大きな力になると話していました。
とかしき議員が事務局長を務める議員連盟には、自民党の国会議員の1割以上にあたる46人が参加。これまで4回開催し、政府の「骨太の方針」の「攻めの予防」のなかに、「肥満症対策」という言葉が入ったそうです。今は、具体的にどう進めていくかを議員連盟で話し合っているとのことでした。
医師も患者も、肥満の話をしたくない
フォーラムの後半では、モデレーターの朝井淳太氏が、肥満症対策の課題として「病気への理解」「治療へのつなぎ」「治療を続ける体制」の3つを挙げました。
そのうち「病気への理解」について話したのが、下村伊一郎先生です。下村先生が共著者として参加した国際研究では、日本の患者さんが初めて医師と肥満症について話すまでに6年かかっていたそうです。これは他国と比べても長い期間でした。
さらに研究チームが一番驚いたのは、診察室で肥満の話をしたくない患者・医師の割合、肥満は本人の責任だと考える患者・医師の割合が、いずれも日本が最も高かったことだといいます。
「足るを知る」文化と、変わりゆく日本の現状
下村先生は、この背景には日本の文化もあるのではないかと話していました。「足るを知る」という言葉のように、食べ過ぎは良くないこと、自己管理ができることが良いこととされてきた日本。それ自体はその通りだとしながらも、メタボリックシンドロームの考え方が出てきた20〜30年前と比べて、日本の状況は大きく変わっているといいます。肥満は、遺伝的な素因や体質に加えて、環境の影響も受けるもの。医師に相談するまで6年というのは、とても長い時間です。「自分のせい」と一人で抱え込まず、気軽に相談できる空気をつくることが大切なのだと感じました。
肥満症への対応は「コストではなく投資」
閉会の挨拶では、PhRMA日本代表のジョナサン・クシュナー氏が登壇しました。フォーラムで示されたアイデアを実現するには、政策をつくる人、医療関係者、患者さん、地域社会が力を合わせる必要があると話し、肥満症への対応は、コストではなく、持続可能な医療制度と生産性の高い未来への投資と捉えるべきだと呼びかけました。
そして、これは政府・産業界・社会が共有する課題であり、一つの立場だけでは解決できないと締めくくりました。
■第9回 ヘルスケア・イノベーションフォーラム
共催:米国研究製薬工業協会(PhRMA)、日本イーライリリー株式会社
後援:厚生労働省、米国大使館・商務部、兵庫県、神戸市、神戸医療産業都市推進機構、在日米国商工会議所、新時代戦略研究所、自由民主党肥満症対策推進議員連盟
特別協力:大阪商工会議所
パネリスト:
とかしきなおみ氏(衆議院議員、自由民主党肥満症対策推進議員連盟 事務局長)
下村伊一郎氏(大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授、日本肥満学会 理事長)
堀岡伸彦氏(厚生労働省 健康・生活衛生局 健康課長)
福田光紀氏(経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課長(併)国際展開推進室長)
パトリック・ジョンソン氏(イーライリリー・アンド・カンパニー エグゼクティブ バイスプレジデント、リリーインターナショナルプレジデント)
モデレーター:朝井淳太氏(新時代戦略研究所(INES) 代表)
国、企業、医療の現場と、それぞれの立場から肥満症への取り組みが語られた今回のフォーラム。肥満を「自己責任」で片づけず、みんなで向き合う健康課題として考える。そのきっかけになるフォーラムだったのではないでしょうか。
体重や体型のことは、なかなか人に話しにくいものです。でも、気になることがあれば一人で抱え込まず、まずは身近な人や医師に話してみる。そんな小さな一歩から、健康との向き合い方が変わっていくのかもしれません。

