経口補水液の正しい使い方と熱中症対策・対処のを詳しく解説していただきました。
救急搬送が初の10万人超え!日本の熱中症は深刻化の一途
2025年の救急搬送は過去最多・初の10万人超え
2025年(5〜9月)の熱中症による救急搬送者数は100,510人と、統計開始以来初めて10万人を突破しました。2024年の熱中症死亡者数は2,033人と過去最多を大幅に更新。さらに、搬送者の57.1%を65歳以上の高齢者が占めています(出典:総務省消防庁・厚生労働省人口動態統計)。
注目すべきは発生場所です。住居での発生が約38%と最多で、屋外だけでなく室内でも熱中症は起きています。高齢者はエアコンを使わない傾向があり、自覚なく危険な状態に陥ることがあります。
軽症か重症かで対処がまったく変わる熱中症
I度(軽症)のうちに経口補水液を飲むことが「命を守る行動」
先生が説明したのが、熱中症の重症度の違いです。熱中症は2024年ガイドラインでI度からIV度に分類されており、段階によって症状も、対処法も、そして予後もまったく異なります。I度(軽症)はめまい、立ちくらみ、大量発汗、こむら返りが主な症状。表面体温の上昇はなく、意識ははっきりしており、自力で水分を飲める段階です。脱水症状がメインのこの段階で、経口補水液が最も効果を発揮します。500〜1,000mLを目安に飲用することで、現場での対応が可能です。
II度(中等症)になると、頭痛・吐き気・倦怠感・判断力や集中力の低下が現れます。体温も上昇し始め、自分では水分補給ができない状態に。この段階では経口補水液の補助的使用にとどまらず、医療機関の受診が必要です。
そしてIII度(重症)では意識障害やけいれん、肝臓・腎臓の機能障害が起きます。経口補水液では対応できず、点滴(輸液)が主体となり、入院・集中治療が必要です。IV度(最重症)は深部体温が40℃以上に達し、重度の意識障害を伴う段階。もはや経口摂取は不可で、直ちに救急搬送し集学的治療が必要となります。
重症の熱中症(ICU入院)では、患者の4人に1人(24.4%)に後遺症が残るという報告があります。最も多いのは脳神経障害で、認知機能障害・嚥下障害・小脳失調などが後遺症として残ることがあります(Nakamura et al. 2011, 日本救急医学会雑誌)。
「発生させない」「軽度で抑える」「死亡・後遺症を出さない」
谷口先生は「軽度の熱中症対処は補水につきる。迷わず飲む。スピードが勝負」と語り、その重要性を強調しました。
そして、熱中症対を考えるうえで大切なことは、まず熱中症を発生させないこと、次に発生しても軽度で抑えること、そして死亡・後遺症を発生させないこと。この3つを実現するうえで、正しい水分補給の知識が欠かせません。
ここで重要なのが「脱水予防」と「治療的補水」を明確に区別することです。普段の生活における脱水予防には水・お茶・コーヒー・紅茶などの日常的な飲料で十分。しかし熱中症・激しい運動後・発熱・下痢・嘔吐などの非日常的な脱水状態になったときは、経口補水液という「治療のための飲料」が必要になります。
経口補水液とはそもそも何か?「飲む点滴」と呼ばれる理由
経口補水液(ORS:Oral Rehydration Solution)は、水にナトリウムとブドウ糖をほぼ等モル比で配合した低浸透圧飲料です。小腸のSGLT-1(ナトリウム・グルコース共輸送体)を最大限に活用することで、水と電解質を通常の飲料より格段に効率よく体に吸収させます。WHO推奨の低浸透圧式(Na⁺ 75 mmol/L)が世界標準で、適切に使用することで点滴への移行を約30%減少させる効果があります。2025年6月からは「特別用途食品」として消費者庁に表示義務化され、脱水時専用の治療飲料として正式に位置づけられました。
近年、メディアによる『塩分過多が気になる方は経口補水液をあまり飲まないほうが良い』といった誤った報道が散見されますが、この認識は大変危険だと谷口先生は話します。
一度熱中症になると、すぐさま重症化してしまうことも少なくないといいます。少しでも脱水の症状を感じたら迷わず経口補水液を飲むことが、命を救うことにつながります。
経口補水液500mLに含まれる塩分は、お味噌汁1杯程度。塩分過多を過剰に意識するよりも、脱水症や熱中症の回避を意識するべきだといいます。
経口補水液の正しい飲み方
経口補水液の飲み方にも正しい方法があります。脱水状態のときはまず500mLをゴクゴクと飲み、その後は1回50〜100mLを5〜10分間隔でこまめに継続します。温度は常温からやや冷たい程度が最適。冷たすぎると腸の吸収が悪化します。冷蔵庫から出して少し置くのがベストです。また、薄めたり味付けしたりすることも吸収効率が下がるためおすすめできません。
飲む量の目安は、軽度の脱水で500〜1,000mL/日、中等度の脱水で1〜2L/日。子どもの場合は乳児で体重1kgあたり30〜50mL、幼児で300〜600mL/日を目安とします。めまい・頭痛・倦怠感が出たらすぐに飲み始め、尿が出るまで継続することが重要です。
高齢者・子ども・持病のある方は飲み方を事前に確認しておく
高齢者は喉の渇きを感じにくいため、自覚がないまま脱水が進みます。計画的・定期的な水分補給を習慣にすること、嚥下が困難な場合はゼリータイプを活用することが有効です。室内にいても油断は禁物で、エアコンの適切な使用も重要な対策です。子ども・乳幼児は体温調節機能が未発達です。熱中症のときは、こどもの場合250mL程度を素早く飲み、その後チビチビ少しずつ飲むようにします。
持病のある方(高血圧・腎臓病・心不全・糖尿病)は、事前に医師に相談し、飲み方や量を確認しておくことを先生はすすめています。いざというときに慌てないための備えになります。
先生が答える、よくある疑問Q&A
Q. スポーツドリンクと経口補水液は何が違うのですか?A. スポーツドリンクは運動時などの水分・エネルギー補給を、経口補水液は脱水症状の改善を目的に作られています。すでに脱水症状が出ている場合は、より吸収が速い経口補水液のほうが適しています。状況に応じて使い分けることが大切です。
Q. 高血圧・糖尿病・腎不全などの持病があっても飲んでよいですか?
A. ふだんからの常用はおすすめできませんが、脱水症状がある場合は飲むことを躊躇しないでください。重症化と後遺症のほうがはるかに怖いためです。まず500mL程度を飲んでから、速やかにかかりつけ医を受診してください。
Q. 薄めて飲んでもよいですか?
A. 特別なシチュエーションを除いておすすめできません。成分バランスが崩れると、吸収効率が下がります。
Q. 下痢のときにも飲んでよいですか?
A. はい、下痢のときに唯一飲んでよい飲料が経口補水液です。ただし嘔吐がある場合は、少量ずつ間隔をあけてゆっくり飲みましょう。
経口補水液は「脱水の治療のための飲料」であり、日常的な水分補給には水やお茶が基本です。ただし、熱中症のサインを感じたら迷わず「経口補水液」飲む。意識障害や嘔吐が続く場合は、すぐに救急車を呼ぶ。この2つを知っているだけで、夏の安全は大きく変わります。
※本記事は医療・健康に関する情報提供を目的としており、個別の診断・治療を推奨するものではありません。症状がある場合は医療機関を受診してください。

